車椅子の父の想い
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
結婚式当日、挙式リハーサルに姿を見せたご新婦のお父様は車椅子に座っていました。少し辛そうな表情を見せており、ご新婦もお父様が無事にバージンロードをエスコートできるかどうか、心配している様子でした。しかし、お父様は「娘と一緒に歩く」という強い意志を持っていて、車椅子のままではなく自分の足で歩くとおっしゃったのです。
事前の打ち合わせで、ご新婦からお父様の病気について伺っていました。お父様は、つい最近大きな手術を受けたばかりで、退院して間もない状態でした。体調は万全ではなく、まだリハビリ中だったにもかかわらず、お父様の「娘とバージンロードを歩きたい」という思いはとても強く、その気持ちにご新婦も心を打たれていたことでしょう。
いよいよ挙式の時間が近づきました。まずはご新郎の入場から始まりますが、その前に、お父様には扉の横で車椅子に座ったままスタンバイしていただきました。いざ、ご新郎が入場するための扉が開いたのですが、ご新郎はすぐに歩き出すことはありませんでした。
「あれ?」と思った瞬間、ご新郎はお父様のいる方向へ向きを変え、深々と一礼をしたのです。その瞬間、時間が止まったかのように静かで、しかし、その一礼には心のこもった敬意と感謝が感じられました。私は思わず涙がこぼれてしまいました。
この出来事は、チャペルの外で起こり、ゲストもご新婦も見ていない場所でのことでした。しかし、それがご新郎の誠実な人柄を物語っているかのようで、彼の心の温かさがひしひしと伝わってきました。時に、結婚式では予期せぬ場所で感動の瞬間に出会うことがありますが、改めて結婚式という特別な場の素晴らしさを実感した瞬間でもありました。
そしていよいよ、ご新婦とお父様のバージンロード入場の時がやってきました。お父様は、万全ではない体調にもかかわらず、自分の足で1歩1歩を力強く踏みしめるように歩いていきました。その姿には、娘を愛する父の強い意志と決意が表れており、チャペル全体がその姿に見入っていました。
きっと、お父様の心の中では、これまでの娘との数々の思い出が蘇っていたことでしょう。ご新婦が打合せの時に教えてくれましたが、幼い頃の運動会で、懸命に走る娘を「頑張れ!」と大きな声で応援してくれたそうです。その応援が嬉しく、ゴールに向かって思いっきり走ったそうですが、きっとそうした記憶が、お父様にとってかけがえのない瞬間であり、今、このバージンロードを歩く瞬間と重なっていたのだと思います。
お父様とご新婦が共に歩くその姿は、長い年月を共に過ごしてきた家族の愛と絆を象徴していました。挙式の会場全体が、この特別な父娘の瞬間に感動し、静かに見守る中、家族の絆がさらに深まったことが感じられる、心に残る素晴らしいシーンとなりました。
チャペルディレクター 解良より