「ありがとう」の伝え方
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
その日、チャペルの控え室では、ご新郎、ご新婦とエスコート役のお父様が、穏やかなひとときを過ごしていました。控え室の中は和やかな雰囲気に包まれ、ご新婦の明るい笑顔が部屋を照らし、皆の心を温かく和ませていました。緊張するどころか、軽やかに笑い声を交わしながら、式を前にした家族の親密な空気が漂っていました。お父様も少し照れながらも娘との会話を楽しみ、これから始まる特別な一日に胸を躍らせているようでした。
いよいよ挙式の時が近づき、ご新婦はお父様としっかりと腕を組み、扉の前に立ちました。控え室から扉の前までの短い移動でしたが、お父様の手を握りしめるご新婦の力強さには、これまでの思い出とこれからの未来への決意が詰まっているようでした。お父様も娘の手のぬくもりを感じながら、どんな言葉をかけようかと考えていたのかもしれません。
入場曲の前奏が響き始め、いよいよ扉が開くその瞬間、ご新婦の表情からふっと笑みが消えました。先ほどまでの明るい笑顔はそこにはなく、真剣な眼差しでまっすぐと扉の向こうを見つめていました。お父様と並んで立つその姿は、幼い頃からずっと憧れていた花嫁そのものでしたが、そこには大人としての決意と覚悟が感じられました。
扉がゆっくりと開くその時、ご新婦は小さな声で「お父さん、ありがとね。」と静かに囁きました。いつもそばにいてくれたお父様への感謝の気持ちが、短いその一言に込められていました。小さくてシンプルな言葉でしたが、それがどれほどの重みを持つものか、すぐに伝わってきました。何も言わずにただ黙って頷くお父様の姿には、込み上げる涙を必死に抑えようとする姿がありました。唇をかたく結び、視線を上に向けて涙を堪えるお父様の姿は、ご新婦の言葉に全ての思いが詰まっていることを理解していたからこそでした。
バージンロードを進むお父様の横顔は、涙を堪えながらも、これまで育ててきた愛情が滲み出ていました。娘をエスコートするという役割の中には、お父様自身もまた、これまでの日々を振り返り、今日という日を迎えられたことへの感謝が込められていたのかもしれません。お父様の横顔は、その一瞬一瞬がかけがえのないものだと教えてくれるようで、私の心に今でも鮮明に焼き付いています。
ご新婦の心からの感謝の言葉は、私たちスタッフの心にも深く響きました。結婚式はご新郎ご新婦にとって大切な日であると同時に、家族にとっても一つの大きな節目であり、新たな出発の日です。結婚式の準備を通じて、家族の絆がより一層強まる瞬間を目の当たりにするたびに、私たちもその場に立ち会えることの喜びを感じます。
そして結婚式は、ご新郎ご新婦だけでなく、家族や友人、そしてその日を支えるスタッフにとっても特別な時間です。このエピソードを通じて、改めて結婚式が持つ力と感動を強く感じることができました。どんなに些細な言葉でも、その裏にある深い感情が伝わる瞬間がある。これからも、そんな幸せな瞬間に立ち会い、多くの笑顔を見届けられることを楽しみにしています。
チャペルディレクター 宮本より