父と母、再び手を取り歩く瞬間
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
新婦のご家族だけが見守る静かな結婚式。そのシンプルさこそが、深い愛情をより引き立てていました。この結婚式を挙げる決心をされたのは、新婦のお父様が背中を押してくれたからだと、以前から伺っていました。ご新郎新婦が笑顔と温かな拍手に包まれながら退場するその姿を、嬉しそうに見つめていたお父様の表情は、満足感に満ちていました。
ご新郎ご新婦の退場後、ふとお父様はお母様に向かい、「なんか、俺たちも歩きたくなっちゃったな」と、照れくさそうに腕を差し出されたのです。バージンロードを一緒に歩くその仕草に、私は心が温かくなり、思わず「ぜひ!」とおふたりを促しました。その場にいたご家族も、温かい空気に包まれながら、自然と微笑みが溢れました。
お父様はお母様の腕を優しく取り、「何十年ぶりかなぁ」と冗談めかしながらも、その歩みには確かな愛情が感じられました。その瞬間、カメラを持っていた弟様にも声をかけました。「今からお父様とお母様がバージンロードを歩かれるので、記念にお写真を!」と。弟様もカメラを構えながら微笑んでいらっしゃいました。
ご新婦のご両親が、ゆっくりとバージンロードを歩き出す姿は、まるで時を超えて、かつてのおふたりの特別な瞬間を再現しているかのようでした。共に歩むその姿は、今この場にいる誰にとっても、特別な感動を与えてくれました。静かなチャペルの中、響くおふたりの足音が、過去と今を繋ぎながら歩んでいる、見守る全員が微笑んでしまう瞬間でした。
その美しい瞬間を目にした私は、すぐにご新郎ご新婦が待つ控室へと向かいました。「たった今、おふたりにはご覧いただけなかったのですが、ご新婦のお父様がお母様をお誘いして、おふたりでバージンロードを腕を組んで歩かれました。本当に素敵でした…」と伝えると、言葉に詰まってしまった私自身の目から涙が溢れてきました。
そんな私の様子に、ご新婦は驚きながらも、「私の両親のことで泣いてくださるなんて…」と優しく微笑み、目に涙を浮かべていました。それを見たご新郎もまた、静かに感慨深い表情を浮かべていました。
親が歩んできた道と、今自分たちが歩む道。その繋がりを感じさせるこの瞬間が、ふたりにとってかけがえのない宝物となったのだと、私は強く感じました。
いくつになっても、バージンロードは大切な瞬間を象徴する特別な場所です。ふたりにとっても、そしてその家族にとっても、この道を歩むことがどれほど意味のあるものか、改めて感じさせられるひと時でした。
チャペルディレクター 末木より