母への感謝を伝えるバージンロード
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
多くのご新郎は、挙式当日、通常お一人で入場されます。それが一般的なスタイルであり、特に違和感を感じることはありませんでした。しかし、あるご新郎の人前式の打合せ時、私は少し気になったことがありました。
そのご新郎のお父様は、式に列席されない予定でした。なぜだか、お母様が寂しい思いをされるのではないかと感じ、ご新郎に「お母様と一緒に入場されてはいかがですか?」と提案してみました。すると、ご新郎の目が一瞬で輝きました。「そんなことができるんですか?」と、驚きと喜びが混じった表情でお聞きになられたのです。
その後いろいろと話をしながら聞いたところ、ご新郎は、女手ひとつでご自分を育ててくださったお母様に対し、深い感謝の気持ちを持っていたそうです。しかし、これまでの人生の中で、その感謝の気持ちを明確に表現する機会があまりなかったと語られていました。そんな彼にとって、お母様をエスコートしてバージンロードを歩くというのは、感謝の気持ちを形にして表現できる素晴らしい機会でした。その提案を受け入れたとき、ご新郎は本当に嬉しそうでした。
打合せの中で、人前式の進行は、司会者が務めることを説明した時、ご新郎から追加のリクエストがありました。「当日の司会コメントで、お母様に対してどれだけ感謝しているかをぜひ伝えてほしい」とのことでした。お母様とのバージンロードを一緒に歩くことは既に決まっていましたが、その感謝の気持ちを言葉として式の場で伝えることが、ご新郎にとって特別な瞬間になるということでした。
そして、いよいよ式当日。バージンロードの入口で待つお母様は、この日ご自分が息子と一緒に歩くことに対して、少し緊張している様子でした。しかし、息子であるご新郎が手を差し出すと、お母様の表情は一瞬にして柔らかくなりました。二人が腕を組み、ゆっくりと歩き始めると、会場には温かな空気が漂い、参列者たちもその特別な瞬間を見守っていました。
歩いている途中、司会者がご新郎のリクエスト通りに、ご新郎がお母様に抱いている感謝の気持ちを丁寧に伝えました。その時、お母様は少し驚かれたようで、思わず「えっ?」と声をもらしてしまいました。事前に感謝の言葉が伝えられることは知らされていなかったため、その瞬間がお母様にとって大きなサプライズだったのです。その言葉を聞いてからのご新郎とお母様の姿は、今まで歩んできた親子の絆を感じさせるものでした。お母様の目には、次第に涙が浮かんでいましたが、その涙は感動と喜びからくるものであり、会場全体をさらに温かい雰囲気で包み込みました。
この瞬間に立ち会えたことは、私にとっても忘れられない一日となりました。お母様に対する感謝の気持ちを言葉にすることで、お母様は息子との特別な絆を改めて感じられたことでしょう。そして、ご新郎にとっても、この感謝の気持ちを形にして表現することができたことは、心の中でずっと温めてきた想いを解き放つ貴重な機会となったに違いありません。
このように、結婚式の準備段階では、どんなささいな気持ちでも言葉にしていただくことがとても大切です。私たちはご新郎ご新婦の気持ちをしっかりとヒアリングし、それを式当日に反映させることで、より一層心に残る挙式を作り上げたいと考えています。結婚式という特別な時間は、ただ愛を誓うだけではなく、これまで支えてくれた人たちへの感謝を伝える大切な機会でもあります。今後もこのような感動的な瞬間を一緒に作り上げていきたいと心から願っています。
チャペルディレクター 末木より