亡き父と共に歩む道
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
その日、チャペルには静かな緊張感が漂っていました。ご新婦のお父様は、数年前に亡くなられていました。結婚式の入場の際、花嫁の父がエスコートされることが多く、お母様やご兄弟にエスコートをお願いされる場合もありますが、ご新婦はお一人で歩くことを選ばれました。リハーサルでは、スタッフの説明通りにバージンロードの中央を静かに歩かれる姿が印象的でした。その毅然とした表情には、どこか寂しさを感じさせながらも、決意の強さが感じられました。
挙式本番、ゲストが静かに見守る中、ご新婦がチャペルの扉をくぐる瞬間が訪れました。真っ白なウェディングドレスに包まれた彼女は、凛とした姿で一礼をし、そして、そっとバージンロードのサイドに寄られました。その瞬間、会場にいた誰もが、その行動に目を奪われました。
ご新婦があえてバージンロードの真ん中ではなく、サイドを歩き始めた理由。それは、彼女の心の中にお父様が寄り添っていることを示していたのです。彼女にとって、その瞬間、亡くなられたお父様がそばにいて、一緒に歩いているように感じていたに違いありません。まるでお父様がその手を取り、静かにエスコートしているかのように見えました。
列席者の誰もが、ご新婦のその行動に心を打たれました。お父様への深い想いが伝わり、静寂の中に感動が広がっていきます。ご新婦は、決して一人で歩いているわけではありませんでした。心の中で、お父様と共にバージンロードを歩んでいたのです。
その光景を目にした私の胸にも込み上げるものがありました。普段、結婚式に立ち会う中で多くの感動的な瞬間に触れてきましたが、このシーンは特別でした。ご新婦が、亡きお父様への想いを形にして表現したその一歩一歩は、心からのメッセージでした。お父様への感謝や、これまでの歩み、そして新たな人生への決意が、全てその歩みに込められているようでした。
新郎のもとへ、ゆっくりと向かって進むご新婦の姿を見守る中、会場全体が涙に包まれていました。特に、ご新婦のご家族や親しい友人たちは、彼女の横に宿るお父様の存在を感じ取り、こみ上げる感情を抑えることができなかったようです。新郎もまた、その静かで力強い歩みに感動し、涙ぐむ姿が印象的でした。
そのバージンロードを歩き切った時、ご新婦が新郎と手を取り合い、新たな未来に向けての一歩を踏み出し、誓いが交わされました。
お父様と共に歩いたその道のりは、亡きお父様との深い絆を感じさせる瞬間であり、家族の愛が形になった、忘れがたい特別な一歩だったのです。
チャペルディレクター 末木より