小さな部屋の中でベールダウン

感動ストーリー100

挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。

最近では、挙式の前にご新婦のお母様がベールダウンを行うシーンはあたりまえのように見られます。多くの人の目の前で、娘を送り出すその瞬間は、感動的で美しいシーンの一つです。しかし、少し前まではこのシーンが、チャペルの横にある小さな部屋で、ご新郎ご新婦とご新婦のご両親だけの静かな時間の中で行われることが多くありました。挙式直前の緊張感と、4人だけの限られた空間。そこには家族だけが知る特別な空気が流れていました。

挙式の準備が整い、いよいよ入場を待つばかりというタイミング。ご新郎、ご新婦、ご両親が部屋に集まり、短い談笑が始まります。「緊張するね」「でも大丈夫よ」と、互いに笑顔を見せながらも、その奥にはそれぞれの想いが渦巻いていることが、部屋の空気からひしひしと伝わってきます。いつも通りの笑顔の奥に隠された感情。ご両親にとって娘を送り出す日がやってきたという現実が、少しずつ心の奥を揺さぶっていました。

そんな中、スタッフから「そろそろお時間です」と声がかけられると、お母様はご新婦のもとへと一歩を踏み出します。お母様はご新婦の目をじっと見つめ、ベールを手に取りました。普段は強く、どんな時も家族を支えてきたお母様も、この瞬間ばかりは感情が込み上げてしまい、言葉を探すように口を開きます。しかし、声はすぐには出てきません。ようやく絞り出すようにして、お母様が口にしたのは「幸せになってほしい」の一言。その短い言葉には、これまでの日々やこれからの未来への想いが込められていました。その瞬間、ご新婦の瞳にも涙が浮かびます。子どもの頃から守ってくれた母の手が、今、自分を新しい人生へ送り出してくれている。手の温もりに、これまでの感謝と新たな門出への決意が重なり合います。

そしてその後ろで見守っていたお父様も、感極まった表情でご新郎の前に立ちます。「娘をよろしくお願いします」と、深々と頭を下げるお父様。いつもは無口でどこか寡黙なお父様が、この時ばかりはご新郎にすべての想いを託すかのように頭を下げました。ご新郎もその想いを真摯に受け止めるように、深くお辞儀をし、「こちらこそよろしくお願いいたします」と答えます。言葉はシンプルですが、そこにはご両親の深い愛情と信頼が感じられました。ご新婦にとって、この小さな部屋で交わされた言葉や想いは、何よりも温かく、心に残る贈り物となりました。

ベールダウンはただのセレモニーではなく、お母様が娘の人生に最後のお仕度を施す特別な瞬間。そして、お父様の「娘をよろしくお願いします」という言葉もまた、これまで大切に育ててきた娘を新たな家族に託す、一つの区切りの言葉でした。普段の挙式では見ることのできない、家族だけの静かな時間の中で行われるベールダウンのシーン。その背後には、言葉にならない深い感情と、家族の絆が静かに流れていました。

チャペルディレクター 寺谷

花嫁相談 編集部

花嫁相談 編集部 現役プランナーで構成する花嫁相談編集部。結婚準備を楽しく悩みの解決に役立てていただける記事を配信しています。 ここに無い質問やご相談はお気...

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