結婚10周年目の花嫁
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
その日、チャペルには穏やかな時間が流れていました。若くして結婚されたご新婦は、結婚10周年を迎え、ついに念願の結婚式を挙げることになりました。ウェディングドレスに身を包んだ彼女の姿は、初々しさを残しつつも、10年間の歩みがその表情に深く刻まれていました。まるで、これまでの年月が彼女をさらに輝かせているかのようでした。
今回の結婚式は、ご新婦のお父様の「結婚式を挙げてほしい」という長年の願いが実を結んだもの。おふたりはこれまで式を挙げる機会がありませんでしたが、10年目の節目に、親御様への感謝の気持ちを込めて式を行うことを決心されたのです。列席者は、両家の親御さまと、ふたりの大切な 9歳になる息子さんだけ。とても小さな、しかし特別な式でした。
9歳の息子さんは、多感な時期にさしかかり、少しシャイだと聞いていました。家族の中でも特に静かで、控えめな性格の彼は、その日もどこか緊張した様子でスーツを身に着けていました。チャペルに向かう直前、彼のジャケットのポケットチーフが少し崩れているのに気づき、そっと手を差し伸べて直してあげました。
「うん、コレがいい。ありがとうございます。」
彼は小さな声でそう言ってくれましたが、その時、初めてその日一番の笑顔を見せてくれました。たった一言でしたが、彼の心がほぐれた瞬間を目の当たりにして、胸が温かくなりました。
9歳の少年が、この日をどんなふうに感じていたのか、親としてのふたりがどれほど彼を愛してきたのかが、その一瞬の表情からすべて伝わってきたのです。おふたりの歩んできた10年の歴史は、何よりも息子さんの成長が物語っています。まだ幼いながらも、彼の目に映る両親の姿は、きっとこの10年間の愛の結晶だったのでしょう。ふたりが築いてきた絆と、家族の温かな日々が、少年の笑顔に凝縮されているように感じました。
10年の節目で実現した結婚式。ご新婦のお父様も、そんな家族の姿を目にして、何度も涙をぬぐう場面がありました。お父様にとっても、娘がついに結婚式を挙げる瞬間は、長い間待ち望んでいた特別な時間だったのでしょう。
誓いの言葉を交わす瞬間、9歳の息子さんもおふたりのそばで、静かにその姿を見守っていました。3人で交わされる言葉、そしてその後ろに立つご両親の温かい視線。その全てが一つになって、新たなスタートを祝福していました。
「改めて、おめでとうございます。」心の中でそう呟きながら、この家族がこれからもさらに素敵な未来を築いていく姿を想像しました。10年という年月が証明する愛、そしてその愛の象徴である息子さん。これからも変わらずに続いていく家族の絆を感じられたその瞬間は、私にとっても忘れられないものとなりました。
チャペルディレクター 末木より