いっち、にぃ、いっち、にぃ
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
新郎新婦ともに警察官ということを聞いたとき、まず驚いたのはご新婦の可愛らしい佇まいでした。とても柔らかい物腰で、愛嬌たっぷりに微笑まれるご新婦からは、厳しい職務に就かれている姿をまったく想像することができなかったのです。ふんわりとした雰囲気をまとったその姿からは、警察官という職業の持つ緊張感や重圧が感じられませんでした。しかし、時折見せるまっすぐな眼差しや、ご新郎と見つめ合うときの真剣さから、ご新婦の内に秘めた強さがうかがえました。そんなご新婦と並んで立つご新郎もまた、頼りがいのある雰囲気を醸し出しておりました。
挙式は人前式で行われ、ゲスト全員が二人の誓いの言葉に耳を傾けるなか、しっかりと手をつないだ新郎新婦が声を揃えて誓いました。「夫婦として、『同志』として支えあっていきます」。
その誓いの言葉に込められた深い意味は、二人が共有する特別な職業ゆえのものでしょう。警察官という職務は、私たちには計り知れない多くの危険や苦労が伴います。その中で、お互いの存在がどれほど大きな支えとなっているのかを考えると、二人の関係がただの夫婦以上に「同志」としても成り立っていることが感じられました。
二人は、職務の中でお互いの安全を願い、困難を共に乗り越えてきたことでしょう。その絆の深さが、この誓いの言葉に込められていました。
その瞬間、会場全体がしんと静まり返り、ゲストたちは二人の絆に心を打たれ、静かに見守っていました。ご新郎の声には強い決意が込められ、ご新婦もその言葉に応えるように優しく頷きました。その場には、言葉に尽くせない感動が満ちていました。
その後、式が進み、いよいよフラワーシャワーの時間がやってきました。新郎新婦はゲストの待つ大階段へと進みますが、普段は背筋をピンと伸ばし、精悍な姿で歩かれるであろう新郎も、今日ばかりは少し勝手が違うようでした。ご新婦のドレスが長く、美しく広がる一方で、その裾が新郎の足元に絡まり、思うように歩くことができないのです。二人とも少し戸惑った様子でしたが、そのとき、ご新婦が小さな声で掛け声をかけました。
「いっち、にぃ、いっち、にぃ、せーのっ!」
その声はまさにプロフェッショナルの号令のようで、リズムよく、テンポ良く響きました。その瞬間、新郎の表情がほころび、ご新婦も笑顔を浮かべました。二人は息をぴったりと合わせて、一歩ずつゆっくりと階段を下り始めました。ご新婦の号令に合わせて、新郎もリズムに乗り、二人の足並みがぴったりと揃ったのです。その様子を見たゲストたちからは自然と笑みがこぼれ、温かな笑い声と拍手が会場全体に広がりました。
困難な状況でも、笑顔と掛け声で乗り越えていく姿は、これからの結婚生活においても、どんな困難も共に乗り越えていくであろうという強い絆を感じさせました。そして、その姿はゲスト全員の心に深く刻まれ、忘れられない感動的な瞬間となったのです。
チャペルディレクター 末木より