成長を見守る親の最後の支度
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
今回のお話は、ご新郎の入場時に行われた「ジャケットセレモニー」についてです。このセレモニーは、ご新郎の親御様にとって、息子の成長を改めて感じる特別な瞬間であり、非常に感慨深いものです。ジャケットセレモニーとは、ご新郎のお父様やお母様が、息子に結婚式でのジャケットを着せてあげる儀式です。このセレモニーには、親御様が息子を花婿として送り出す大切な準備を象徴する意味が込められています。
結婚という大きな節目を迎え、今あらたに歩き出そうとするご新郎。結婚式の入場時に親御様が息子に直接手をかけて身支度を整えることで、長年の成長と愛情を再確認するのです。
この日、ご新郎は緊張しながらも立派な姿で親御様の前に立っていました。彼が幼かった頃、親御様は毎日のように息子の身の回りのお世話をしてきました。例えば、くつ下を履かせたり、寝る前にパジャマを着せたりしていたことでしょう。そんな幼く愛おしい息子の姿、親にとって今も鮮やかに思い出されることでしょう。
しかし、目の前にいるのは、あの小さかった息子とは違います。成長して、堂々とした花婿姿になった息子の後ろ姿を見つめ、親御様の胸にはさまざまな思い出が去来したことでしょう。お父様がご新郎の肩にそっとジャケットを羽織らせた瞬間、その光景はとても象徴的でした。かつては小さくて無邪気だった我が子が、今や一人前の大人として結婚式という重要な日を迎えている。その姿に、過去の思い出と現在の息子の成長が重なり合い、感慨深い瞬間が広がります。
ジャケットを羽織らせた後の儀式もまた印象的でした。ご新郎のお母様が、息子の大きく成長した背中に手を添え、優しくさする仕草が見られました。お母様の手は、かつて小さかった頃の息子を抱きしめていたあの手と同じです。その手で今、立派に成長した息子の背中を、愛情を込めてさする姿は、まさに「送り出す」儀式そのものでした。
お母様は背中を1回、2回と優しく撫で、言葉にならない深い愛情を伝えたのです。その光景を目にした私も、思わず仕事を忘れてしまうほどの感動を覚えました。
結婚式は新郎新婦の二人の新しい人生のスタートを祝う場であると同時に、親御様にとっては子供を送り出す大切な節目でもあります。親として、これまで育ててきた子供が幸せな人生を歩んでいけるようにと、願いを込めて背中を押してあげる――それがこの儀式の本質かもしれません。
挙式の後、ご新郎ご新婦は親御様への感謝の言葉を述べ、家族同士の絆がさらに強く結ばれました。親から子へ、そして新しい家族へと受け継がれる愛情が、このジャケットセレモニーを通じてはっきりと感じられました。
チャペルディレクター 末木より