お父様のやさしい手で拭う涙

お父様のやさしい手で拭う涙
感動ストーリー100

挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。

チャペルの扉が静かに開かれると、そこに佇んでいたのは美しい花嫁と、花嫁を見守るお母様の姿でした。花嫁はウェディングドレスに身を包み、そのままベールダウンの時を迎えます。お母様は、慈しみと愛情に溢れたやさしい手で、娘のフェイスベールを丁寧に下ろしました。その瞬間、これまで育ててきた日々の思い出が一気に胸に込み上げたのでしょう。花嫁の瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出しました。

「おめでとう」という言葉よりも、ただ静かに娘の顔を見つめるお母様。その視線に応えた花嫁は、バージンロードを歩き出そうとしますが、感情がこみ上げ、どうしても足が前に進みませんでした。フェイスベールに包まれた顔は涙で濡れ、肩を小さく震わせている姿がとても印象的でした。

その場にいる全員が、この特別な瞬間を見守っていました。そばにいるスタッフも、花嫁に何か声をかけることができず、ただ見守るしかありません。フェイスベールに触れることさえ、誰もがためらってしまうほどの繊細な時間が流れていました。

そんな時でした。花嫁のお父様が、ごく自然に一歩前に進まれたのです。お父様は、何も言わず、そして誰にも気づかれないような仕草で、そっと花嫁のベールに手を伸ばしました。まるで、日常のひとコマを切り取ったかのように、お父様の手はゆっくりとフェイスベールを少し持ち上げ、花嫁の顔にかかる涙を見つめました。

「どうした?」と声をかけることなく、ただその涙を優しくハンカチで拭うだけ。その動作には、言葉以上の深い思いやりが込められていました。お父様のその手は、ずっと変わらずに花嫁を支えてきた手。幼い頃、転んで泣いた時も、落ち込んでいる時も、いつもその手がそばにあったことが伝わってきます。そして、今この大切な瞬間にも、またその手が花嫁の涙をぬぐい、安心感を与えているのです。

涙が拭われた後、花嫁は静かにうなずき、お父様の手を握りました。その瞬間、花嫁の表情が少しだけ緩んだのを、私は見逃しませんでした。まるでその手が「大丈夫だよ」と、無言で伝えているかのようでした。さりげない行動の中に、父親としての大きな愛が込められていたのです。

その場にいる全員が、言葉にならない感動を共有したように感じました。お父様のこの瞬間の対応が、娘にとってどれだけ心強かったかは、きっと誰もが理解していたでしょう。そして、そのさりげない優しさに、私自身も心を奪われました。

やがて、お父様は何事もなかったかのように、花嫁の手を引き、バージンロードの一歩を踏み出しました。花嫁もまた、少しだけ強い足取りで歩き始めました。その後ろ姿には、これまでの親子の絆がすべて詰まっているように感じられ、見守る全員が胸を熱くしたのです。この一瞬に込められた家族の愛と、父親のさりげない行動が、結婚式という場にふさわしい感動を与えました。バージンロードを進む花嫁とお父様の姿は、決して派手な演出ではなく、心からの温かさで包まれていました。

チャペルディレクター  末木より

花嫁相談 編集部

花嫁相談 編集部 現役プランナーで構成する花嫁相談編集部。結婚準備を楽しく悩みの解決に役立てていただける記事を配信しています。 ここに無い質問やご相談はお気...

プロフィール

ピックアップ記事

関連記事一覧