出席できないお母様のために
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
お打合せの時に、ご新郎より相談を受けました。それは、当日出席できないお母様に自分の姿を見てもらいたいということでした。
ご新郎の家庭は複雑でした。ご両親は離婚され、お父様は再婚し、そのため挙式には義理のお母様が参列することになっていました。それでもご新郎は、実のお母様にも自分の晴れ姿を見てもらいたいという強い気持ちがありました。
一方で、実のお母様は親族との対面を避けなければならないという事情も抱えていました。結婚式という大切な場で、すべての人が心穏やかに過ごせるようにするため、細やかな配慮が必要でした。そこでご新郎とチャペルのスタッフは、実のお母様にも特別な役割を果たしてもらえるように計画を練りました。
当日、挙式の前、実のお母様をチャペルにご案内し、扉を閉めた状態で「ジャケットセレモニー」を行いました。ご新郎はお母様の前に立ち、緊張しながらも、どこか嬉しそうに自分のジャケットを手に取ります。お母様はその手を受け取り、ご新郎の肩にゆっくりとジャケットを掛けました。ご新郎の背筋がスッと伸びました。
「お母さん、ありがとう」とご新郎は静かな声でお母様に感謝の気持ちを伝えました。その瞬間、実のお母様の目にも涙が浮かびました。「立派になったね、本当におめでとう」とお母様は優しく声をかけました。扉の向こうに広がる世界へと向かう息子に、全力で愛情を伝えるその姿は、確かに親子の絆が存在していました。
さらにご新郎は、お母様への感謝の気持ちを込めてウエイトドールと花束を贈りました。お母様は驚き、そして喜びながらその贈り物を受け取りました。「あなたがここまで成長してくれたこと、それが私にとって何よりの贈り物だよ」と微笑むお母様に、ご新郎もまた笑顔を返しました。言葉少なながらもその場に流れる愛情は計り知れないものでした。
エンドロール撮影がありましたが、親族との関係を考慮し、実のお母様の姿は映像には残されませんでしたが、その存在は確かに感じられていました。挙式を見守り、息子の幸せを心から願うお母様の姿は、記録には残らないものの、ご新郎の心の中に深く刻まれていくものでした。
その日、ご新郎は新たな家族と共に歩み始めると同時に、これまで支えてくれた全ての家族へ感謝の気持ちを込めた一歩を踏み出したのです。会場にいたすべての人々がその姿を見守り、心からの祝福を送りました。
チャペルディレクター 槌屋より