ジャケットセレモニーで伝わる親子愛
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
結婚式にはたくさんのドラマがあります。特に入場シーンでは多くの方が花嫁様に注目しがちですが、その日の結婚式で見せたご新郎の振る舞いは、私たちスタッフの心に強く刻まれるものでした。打合せの際、「ご新郎の入場の希望はありますか」と伺うと、ご新郎は「ぜひ、ジャケットセレモニーをしたいです」と嬉しそうに話してくださいました。多くのご新郎が恥ずかしさを感じるシーンでありながら、そのように堂々と希望される方は珍しく、とても心に残りました。
結婚式当日が訪れました。挙式の前、チャペルの準備が整い、ご新郎の入場の時間が近づいてきました。私は、入場前にご新郎に「お母様にジャケットを着せていただいたら、親御様と向かい合って、感謝の気持ちを言葉で伝えてくださいね」とお伝えしました。そのアドバイスに対し、ご新郎はしっかりと「はい」と頷いて答えました。その表情には、自信と決意が表れていました。
いよいよジャケットセレモニーの時がやってきました。母親にジャケットを羽織らせてもらったご新郎は、少し緊張しながらも、深呼吸をして母親と向かい合いました。そして、その瞬間、ご新郎は親御様の目をじっと見つめ、言葉を紡ぎました。その声の大きさは、親御様だけに届くほどの控えめなものでしたが、その一言一言には、深い感謝の思いが込められていました。私たちスタッフにはその言葉の内容は聞こえませんでしたが、ご新郎の真剣な表情、そしてそれを聞く親御様の優しい微笑みから、お互いの心が通じ合っていることが伝わってきました。
ご新郎が歩み始める直前、親御様は新郎様の背中を挟んで目を合わせ、軽くうなずき合いました。そして、ご両親はご新郎の背中に手をそっと添えました。ご新郎の背中を支える手がゆっくりと動き、ご新郎の背中をそっと押して送り出しました。この親御様の掌がご新郎の背中から離れる瞬間は親としての役目を果たし終えた瞬間でもあったことでしょう。
その光景は、チャペルスタッフである私たちだけが目にすることができる特別なものでした。
その瞬間に込められた親御様の想い—自分たちの手を離れていく子どもへの愛情、そして新たな未来へ向けた大きな期待と誇り—を感じ、私たちスタッフも胸がいっぱいになりました。ご新郎の背中を見送る親御様の視線には、成長した我が子を送り出す寂しさと共に、ここまで育て上げたという喜び、そして新たな家族としての出発を心から祝福する気持ちが込められていたに違いありません。
このような瞬間を目の当たりにするたびに、結婚式がもたらす感動の深さを改めて感じます。一つ一つの場面には、言葉に尽くせないほどの愛と感謝の想いが詰まっているのです。
チャペルディレクター 解良より