聖歌隊のいない結婚式
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
新郎新婦は共に声楽家でした。そんなおふたりが結婚式でのご要望が1つありました。それは、【聖歌隊のいない結婚式】。聖歌隊は入らず、オルガンの演奏のみにしてほしいとのこと。
一見すると、聖歌隊がいない結婚式は少し寂しいと感じられるかもしれませんが、おふたりにはそれぞれ特別な思いが込められていました。
ご新婦は学生時代、音楽大学に在籍しながら聖歌隊のお仕事をされていたそうです。ご新婦はその仕事に誇りを持って取り組んでいました。毎回、一生に一度の特別な日である結婚式で歌うことの重みを感じながら、精一杯の心を込めて讃美歌を歌っていたのだといいます。
「結婚式で歌うということは、とても大きな責任です。一生に一度の瞬間に立ち会うわけですから、それは毎回、本当に緊張しました。だからこそ、自分の結婚式では、もし聖歌隊がいると気になってしまって、お式に集中できなくなりそうで…」
そんな思いから、おふたりは【聖歌隊のいない結婚式】を選びました。自分たちの結婚式では、プロとしての自分ではなく、ただ一人の花嫁、花婿として特別な瞬間を迎えたいという強い願いが込められていたのです。
そして迎えた結婚式当日。チャペルに響き渡るのは、まさに新郎新婦自身の声でした。讃美歌を力強く、美しく歌い上げるおふたりの姿は、他のどんな結婚式にもない、唯一無二の光景でした。その響きは、二人の新たな人生のスタートへの決意を表しているようでした。
挙式は順調に進み結びの瞬間を迎えようとしていたその時、チャペルの扉の方から予想もしないサプライズが訪れました。扉の前に現れたのは、ご新婦が音楽大学時代に共に聖歌隊で歌っていた仲間たちでした。実は、【聖歌隊のいない結婚式】をすると聞いた彼らが、新郎新婦のためにこっそりと準備をしていたのです。
仲間たちは一列に並び、ハレルヤコーラスを高らかに歌い上げました。その瞬間、チャペル内に感動の波が広がりました。おふたりが選んだ特別なスタイルの結婚式に、かつての仲間たちが自発的に加わり、祝福の歌声を捧げたのです。
ご新婦は、ハレルヤコーラスの響きがチャペルに広がるのを聞きながら、目に涙を浮かべました。そしてその涙は、次第に大粒となり、頬を伝ってこぼれ落ちました。かつて共に歌い、緊張しながらも誇りを持って結婚式を支えていた日々が、一気に蘇ったことでしょう。
聖歌隊の仲間たちのサプライズは、会場全体に感動と温かさをもたらし、これまでにない特別な結婚式となりました。音楽で結ばれたおふたりの新たな門出を、音楽仲間たちが最高の形で祝福した瞬間でした。
チャペルディレクター 宮本より