家族の愛で紡がれたベールダウン
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
チャペルで新郎新婦がリハーサルを行っている中、私はふと目を向けた先に、思わず微笑んでしまう光景を見つけました。新婦のお父様が、スタッフが練習用に使うカチューシャ付きのベールを頭に付けて、何やら楽しそうにしているのです。ベールをつけたお父様の姿は、少しお茶目でユーモラスでした。
何をされているのだろうと思いながら見ていると、お母様がベールダウンの練習をしている様子が目に入りました。どうやらお父様が、お母様の練習相手を務めているようです。まるで子供の頃に戻ったかのような和やかな雰囲気で、周囲も思わず和んでしまう光景でした。
練習の合間にお父様が私にそっと耳打ちをしてくれました。その表情は先ほどとは違い、少し真剣なものでした。
「実は妻が不安障害を患っていてね。だから妻を安心させるために、練習台になっているのだよ。」
お父様のその言葉に、私は胸がぎゅっと締めつけられる思いがしました。
新郎新婦からは、お母様が病気を患っているということは聞いていましたが、詳しいことまでは知らなかったのです。それでも、お母様の不安がどれほど大きなものであるかは、その言葉から十分に伝わってきました。そして、そんなお母様を支えるために、お父様が全力で協力している姿が、私の心を深く打ちました。
花嫁支度として、お母様が娘のためにベールを下ろすという重要な役目。これは、お母様にとって本当に大切な瞬間であり、娘に対する愛情の証でもあります。しかし、不安障害を抱えているお母様にとって、この役目を果たすことは決して簡単なことではありませんでした。限られたリハーサルの時間では、その不安を完全に取り除くことは難しかったようで、お母様は直前までスタッフに何度も質問をされていました。
「どのタイミングで一礼すればいいのかしら?」
「ベールを下ろすとき、何か声をかけた方がいいの?」
その姿からは、お母様の不安な気持ちが強く伝わってきました。大切な娘の晴れ姿を送り出すために、自分が間違えたくないという強い想い。そして、その背後には、自分の病気を乗り越え、娘のために何かしてあげたいという深い愛情があったのではないかと思います。
お母様にとって、このベールダウンの瞬間は、本当に一大事だったのだと思います。不安を抱えながらも、それでも娘のためにその役目を果たしたい、そんな強い母の愛情が、お母様の行動のすべてに表れていました。そして、そんなお母様を支えるために、まるで自分も一緒に背負うかのように、お父様がそばで寄り添い、練習相手を務めていたのです。
娘のために、一歩一歩、精一杯の準備を重ねるお母様。そして、それをそっと支えながら、家族全体でこの日を迎えるために力を合わせている姿。ベールダウンのその裏には、娘を想うお母様だけでなく、お母様を大切に想うお父様の愛情もたっぷりと詰まっていました。
チャペルディレクター 後藤より