2年越しの署名
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
ちょうど新郎新婦が入籍されたのは、コロナ禍真っ只中の2021年でした。結婚式をするかしないか、多くのカップルが悩んでいた時期です。二人もその例外ではなく、慎重に話し合った結果、「結婚式はせずに、まずは入籍だけしよう」という決断に至りました。二人と同じように、このような決断をされた方々は少なくありませんでした。
ただ、入籍を済ませたとしても、心のどこかで「本当にこれで良かったのだろうか」という思いが、ふと浮かぶことがあったそうです。結婚式をしないという選択に一度は納得したものの、いつかやっぱり挙げたい、という気持ちは心の片隅に残っていたのです。
その後、二人の新しい生活がスタートし、すぐに妊娠が判明しました。この新しい命の誕生が、二人にとって大きなきっかけとなりました。「けじめをつけたい」という思いが芽生え、自分たちのためにも、これから生まれてくる赤ちゃんのためにも、改めて結婚式を挙げることを決意されたのです。
そして、入籍から約2年が経ち、待望の結婚式を迎えることになりました。式のリハーサル中に、あるほほえましい出来事がありました。結婚証明書に二人で署名をする場面で、ご新婦がふと「どっちの名前を書こう?」と悩まれたのです。新しい姓に変わってから初めての署名ということもあり、少し迷われた様子でした。
私は「結婚式の署名は旧姓でも新姓でも構いませんよ」とお伝えしました。すると新婦は、少し微笑みながら「もうこれが旧姓で署名する最後かもしれないので、旧姓で書きます!」と嬉しそうにおっしゃいました。その表情は、新しい生活を迎える覚悟と、これまでの自分を大切に思う気持ちが溢れているように見えました。
署名台に一番近い席から、ご新婦の親御様がその様子を見守っていらっしゃいました。お二人が並んで立ち、娘がゆっくりと、心を込めて自分の旧姓を書いていく姿に、胸に熱いものが込み上げてきたことでしょう。ご新婦もまた、自分が親となった喜びを感じながら、親御様のこれまでの愛情を深く感じていたに違いありません。
ご新婦が一文字一文字、丁寧に署名を終えたその瞬間、新しい家族としての第一歩を踏み出したのだと感じさせられる、特別な場面でした。
チャペルディレクター 末木より