お母様のベールに包まれて
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
ご新婦が幼い頃から大好きだったもの。それは、お母様とお父様の結婚式の写真でした。アルバムの中のお母様は、ウエディングドレスとベール、手にはブーケを持ち、輝く笑顔でお父様と並んでいました。何度もその写真を眺めながら、「私もこんな花嫁さんになりたい!」と憧れの言葉を口にしていたご新婦。お母様が亡くなられた後、家の中を整理していた時、偶然にもその写真に写るベールと造花のブーケを見つけました。長い時を経ても色褪せることなく、丁寧に保管されていたそれらは、ご両親の思い出が詰まったかけがえのないものでした。
その数年後、結婚が決まり、式場探しや打合せが始まりました。そしてドレスの試着日を迎えた時、ご新婦の心に決まっていたのは「母のベールとブーケが似合うドレスを着たい」という強い想いでした。最初からその大切なベールとブーケを手に持ち、試着に挑んだご新婦。しかし、お父様は「無理に使わなくても、自分の好きなものにすればいいよ」と優しく諭しました。けれど、ご新婦の決意は固く、どんなドレスよりも大切なお母様のベールとブーケを身に纏いたいという思いが、彼女の心の中で揺るぎませんでした。
結婚式当日、ファミリーミートの時間。初めて娘のドレス姿を目の当たりにしたお父様は、その場で思わず涙をこぼされました。目の前には、かつての妻と同じベールとブーケを身に纏い、凛とした笑顔を浮かべる娘が立っていました。お父様は、お母様への想いが蘇るように、目の前の花嫁姿に胸が締め付けられるのを感じていました。
お母様が大切に保管していたベールとブーケが今、こうして新しい命を吹き込まれ、次の世代へと受け継がれていく瞬間。言葉にならない感情がこみ上げてくる中、お父様は涙を浮かべながらも誇らしげに娘を見つめました。
そして挙式の入場の時間となりました。お父様はゆっくりとご新婦の腕を取り、エスコートするために一歩を踏み出しました。その足取りはしっかりとしていますが、胸の内ではさまざまな想いが駆け巡っているのが伝わってきます。娘への愛情、お母様への感謝と敬意。そして、これから始まる新しい人生への祝福。静かに涙を流しながら、ご新婦を見守るお父様の姿には、特別な言葉はなくとも溢れる感情が込められていました。
その姿に心を打たれたのはご新郎も同じで、お父様ご新婦を託されるその瞬間、彼の目にも大粒の涙がこぼれました。目の前の光景がどれほど大切で、どれほどの愛情が注がれてきたものなのかが、自然と伝わってきたのです。
お母様のベールに包まれたご新婦は、誰よりも誇らしげに、そして嬉しそうに笑っていました。その笑顔は、両親から受け継がれた愛の証であり、新たな家族の始まりを象徴するものでした。特別な言葉はなくとも、お父様の涙とご新婦の微笑みがすべてを語っていました。この日は、お母様もきっと空の上から見守りながら、娘の晴れ姿に微笑んでいたに違いありません。
チャペルディレクター 梅田より