生みの父親と育ての父親
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
ご新婦から、ある日こんな相談をいただきました。
「私には、生みの父親と育ての父親がいるのです」と。ご新婦にとっては、どちらの父親も大切な存在です。しかし、生みのお父様は、様々な事情で結婚式に参列することができないとのこと。それでも、ご新婦はどうしても生みの父親にも自分の花嫁姿を見てもらいたいと、強く願っていました。その思いを聞いた時、私たちスタッフも心を打たれ、なんとかその気持ちを形にできないかと考え始めました。
ただし、ここにはひとつ大きな課題がありました。それは、生みの父親が式場に来ることが、新郎新婦以外には知られてはいけないという点です。育てのお父様や、他の親族やゲストにその事実が知られてしまうと、複雑な感情が生まれてしまうかもしれない。それに、二人のお父様が顔を合わせることがあってはならないというデリケートな状況もありました。
そこで、私たちはご新婦の強い願いを実現するため、細心の注意を払いながら計画を練り直しました。どのタイミングで生みのお父様を案内すれば、誰にも気づかれずにご新婦の希望を叶えられるのか。慎重に検討を重ね、ようやく最適なプランを見つけ出しました。
式当日、生みのお父様には、他の参列者が会場に到着するよりもずっと早い時間に、こっそりとチャペルにお越しいただくことにしました。ゲストがまだ誰もいない、静かなチャペルで、ご新婦と生みのお父様、新郎だけの特別な時間を用意しました。その場には、祝福に包まれた親子三人の姿がありました。
生みのお父様とご新婦の二人が、ゆっくりとバージンロードを歩くその瞬間は、誰にも邪魔されることのない、特別な時間でした。いろんなご事情があったことでしょう。きっと、お父様も娘と一緒にバージンロードを歩くことは叶わないと、心のどこかで諦めていたかもしれません。それでも、お父様にとって、ご新婦は紛れもなく「大切な娘」。どんな事情があろうとも、父と娘の絆は決して消えることはないのです。
誰もいないチャペルの中で、生みのお父様はご新婦と共にバージンロードを歩きました。穏やかな空気の中、静かに響く足音だけが二人の特別な時間を包み込みました。そしてバージンロードの先で、新郎が待っていました。そこでお父様はご新婦をご新郎にエスコートチェンジし、大切な娘を新たな人生へ送り出しました。
そして、迎えた挙式本番。今度は育てのお父様と共に、ご新婦はバージンロードを歩きます。式場のチャペルには、たくさんのゲストが集まり、祝福に包まれる中で、父と娘の最後の一歩を共に歩みました。ご新婦にとっては、この瞬間もまた、大切な思い出となりました。
式の後、ご新婦はそっと語りました。「二人のお父さんに囲まれて、私は本当に幸せです」と。ご新婦にとって、生みの父親も育ての父親も、それぞれにかけがえのない存在だったのです。
チャペルディレクター 槌屋より