娘へのエール
挙式に携わる私達が目にした、感動レポートをご紹介します。全て実話です。
私が強く心に残っているエピソードは、ご新婦のお父様がリハーサルから本番直前まで、ほとんど口を開かず、静寂に包まれていた姿です。周囲からの声かけにも「大丈夫です」と短く答えるだけで、その言葉の裏には深い感情が隠されているように感じました。ご新婦との会話もほとんどないまま、静かに時間が過ぎ、いよいよ挙式が始まりました。
入場扉の前でお母様がゆっくりとベールを下ろし、ご新婦とお父様がバージンロードを歩む瞬間が訪れます。扉が開いた瞬間、まるで時が止まったかのような感覚が広がりました。チャペル内は神聖な静けさに包まれ、その空気が全体を支配していました。
お父様とご新婦が一歩一歩進む姿は静かでありながらも、その歩みにどこか重みを感じさせました。チャペル前方にある3段の階段を上がったとき、お父様の表情が変わり、牧師先生の問いかけに対し、一瞬、言葉が詰まったように見えました。
心の奥底から湧き上がる感情を抑えきれず、お父様は声を震わせながら「はい、祝福します」と答えました。その一言には、長年にわたり育まれてきた深い愛情が込められているのを感じました。
ご新婦は、打合せのときにこう話していました。「パパ、きっと泣くだろうな」と。「私の行事にはいつも欠かさず参加してくれて、誰よりも一生懸命応援してくれた。自分のことのように喜んでくれた」と。バージンロードを歩むときも、お父様は心の中で「頑張れ」とエールを送っていたのかもしれません。
ご新婦は、お父様の「はい、祝福します」の言葉に、そのエールが伝わったのを感じたのでしょう。お父様の瞳に涙が浮かぶのを見た瞬間、ご新婦の目にも涙が溢れました。感情を抑えきれずに涙を流すお父様の姿は、心を揺さぶる光景でした。ご新郎も静かに見守りながら、家族の強い絆を感じていたことでしょう。
お父様の涙は、これまで娘を支え、たくさんの愛情で溢れ、言葉では表現できないほどの深い感情がこもっていました。挙式を通じて多くを語らなくても、その一言と一粒の涙ですべての想いが伝わり、会場全体が感動の渦に包まれました。
挙式後も、お父様は静かに涙を拭きながら、ずっとご新婦を見つめ続けていました。まさに家族の愛が一つになった瞬間に立ち会えたことは、私にとっても忘れられない感動的な場面です。
チャペルディレクター 中島より